小松 輝久(こまつ てるひさ)
略歴:
京都大学農学部卒業、京都大学助手、東京大学准教授、
横浜商科大学教授をへて現職
現職:
日本水産資源保護協会技術顧問
国際エメックスセンター上席研究員
委員:
日仏海洋学会会長、日本学術会議連携会員
政府間海洋学委員会西部太平洋小委員会海洋リモートセンシング
プロジェクト・リーダー
わたくしは、大学院生のときから藻場の研究をしてきました。研究を深めるほど、わたくしたちの生活に密接に藻場が関係していることに気づきます。例えば、地球温暖化は大気中の二酸化炭素の増加が関係していて、光合成で二酸化炭素を吸収する陸上の森林と同じ働きを藻場がしています。ですので、藻場を増やすと温暖化を止めるのに役立ちます。
また、わたくしたちが生きるために必要なたんぱく質となる海の幸にも藻場が関係しています。アワビ、サザエ、コウイカ、トビウオが産卵したり、生活したりする場として使っているからです。ブリの子供は、藻場から流れ出たホンダワラ類がつくる流れ藻にくっついて、東シナ海から日本沿岸にやってきますし、サンマはこの流れ藻に卵を産みます。藻場がないと生きていけないたくさんの種類の海の生き物がいます。
残念なことに、最近は、日本沿岸の多くの磯で海藻を食べるウニが増えたために藻場が減少しています。磯焼けが続くと、磯で行う漁業が直接影響を受け、地場産のアワビやサザエも食べられなくなります。さらに、サンマやハマチも食卓に並ばなくなるかもしれません。
米国ではラッコがいる岩礁域では藻場が繁茂しています。というのもラッコがウニを食べて、ウニが増えすぎないように調節しているからです。ダイビング好きの人たちが潜る太陽の光が届く浅い海には、この藻場が分布しています。環境問題の存在は認識していても一般の人々が解決に向けた行動を起こすことは容易ではありませんが、同じ磯焼け問題を抱えるカリフォルニア州ではボランティアダイバーによるウニ駆除活動が行われています。
健全な地球環境と持続的な人間社会の実現に必要不可欠な藻場を、カリフォルニアをお手本にしてボランティアダイバーがラッコになって守れないかと考え、この会をはじめました。海好きのダイバーの皆さん。海について勉強しながら、潜って、一緒に藻場を再生しませんか。
いま世界中の海で、磯焼けが広がっています。日本では、多くの磯で、増えすぎたウニが海藻を食べ、藻場が衰退しています。
ラッコがいる海ではウニを捕食することで海藻の森を守っています。ラッコがほとんどいなくなってしまった日本ではウニをとる漁師さんが磯焼けを防いでくれています。でも、増えすぎたウニは餌の海藻がなく身入りが悪く商売にならないので漁師さんも取らないのです。ウニは10年以上生きるので、ウニで磯焼けすると長く続きます。ボランティアダイバーが漁師さんと協力して、増え過ぎたウニを捕獲し、「磯焼け」を止め、藻場を再生することを目的として、わたしたちはモバイルラッコ隊を設立しました。団体の名前の“モバイル”は、磯焼けが起こっている磯にいつでも駆けつける“mobile”と、藻場の必要性の“藻場いる”から命名したものです。
ラッコ隊は、ボランティアダイバーだけでなく、ノンダイバー、漁師、資金スポンサーなどの方々も歓迎します。例えばダイバーはウニ駆除ボランティアに参加、ノンダイバーはウニ駆除のときの陸上や船上の支援、資金スポンサーはこれらの活動への経済的支援、全員で磯焼けやブルーカーボンについての勉強会、磯焼け対策の普及活動、など磯焼け問題解決にすべての人が参加できると考えています。